温泉津町福光・遥かなる故郷

僕の少年時代(昭和20年から30年代)の思い出

寒行

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 チリんチリんと鉦の音がわが家に近づいている。集落内のお坊さんが寒行で各家の健康と安全を唱えて周っているのだ。

「今年も始まったなー」

 祖母が寝具に包まったままつぶやいた。まだ午前3時ごろだ。

 毎年一月の寒の入りから2月3日の立春まで、数百件ある村中の民家を周っている。

 やがてわが家の庭に立って、念仏を唱えだした。祖母は寝たまま合掌してお坊さんと同じ念仏を唱えている。外に出て挨拶はしない。

「この寒いのに大変だな」

 目が覚めた僕がつぶやいた。

 今日は雨も降らず風もない静かな夜だ、それでも外は寒いだろう。どんなに雨がきつくても雪の降る冷たい夜でもチリンチリンは聞こえていた。

「お坊さんにとっては1年中の米を集める機会だ」

 信仰心の薄い母が言った。

「寒行が終わると村中の人が米2升を持ってお寺へ礼に行くんだ」

 そのために歩いていると母は言いたいのだろう。

  

 節分の日、村の人たちは米2升を入れた綿袋を持ってお寺へお参りしていた。