温泉津町福光・遥かなる故郷

僕の少年時代(昭和20年から30年代)の思い出

獅子舞

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 静かな村に笛と太鼓の音が聞こえてきた。

 なんだろうと村の入り口を見ると村周りの獅子舞がいた。

 獅子は怖い。今まで獅子舞が来ると、いつも家の裏へ隠れてわが家が終るのを待っていた。今回も隠れるつもりだが、一軒ずつ周るので来るまでにはまだ余裕がある。

やがてわが家の石段を上がり始めた。

―そろそろ隠れよう。

と、立ち上がったとき、

「秀ちゃんや、獅子が来たら頭を噛んでもらうんやで、頭が賢くなるから」

 いつもは僕のことを放ったらかしにしている祖母が、今回は僕を後ろから抱きしめて逃げないようにしている。祖母は僕が隠れることを知っていたのだ。

「怖いのか」

 逃れようとする僕をがっしりと抱いている。

「怖くなんかないよ、遊びにいきたいだけや」

「噛んでもらってから行けばいい」

 怖がりだと思われるのは癪だ、今回は逃れようはないと諦めた。

 獅子舞はわが家の庭まで上がって来た。

 笛太鼓に合わせて獅子舞が始まった。

 頭を上や下に動かせ舞ながら家の方を向いていた獅子が、とつぜん動きを止め僕を振り返って、じっと見据えてきた。

―やばい。

 思わず後ずさりしていた。そのとき「頭を下げろ」と祖母に言われた。

 獅子が近づいてきた。祖母にしっかりと捉まえられているので動きがとれない。

覚悟を決めた。

 獅子が大きな口を開けた。

 ―来る、来る。

 僕が後ずさりした、そのとき、後ろにいた祖母が僕の背中をポンと押した。

「あっ」と前のめりになった僕の頭を大きな獅子の口が受け止めた。

 平たい大きな歯の感触がやわらかく僕の頭に伝わった。

 ―なんや、大したことない。

 安堵した。

 獅子舞のひとりに祖母が半紙で包んだおカネを渡すと、囃子も舞も途中で止めて早々に引き上げた。

「なんぼ渡したんや」

 僕が聞くと

「50円、今日は正月だから」

 と祖母が言った。

 いつもは小皿1杯の米で済ませているのに、今回は囃子が聞こえてきたとき、僕の頭を噛んでもらおうと思いついて、おカネを包んだようだった。