温泉津町福光・遥かなる故郷

僕の少年時代(昭和20年から30年代)の思い出

半鐘

半鐘 集落の中心に半鐘があった。 半鐘は水害や火事など集落に緊急の異変があったときだけ叩く。だから普段は存在そのものを忘れられていた。 僕が初めて聞いたのは中学1年の7月に入ったばかりの日曜日だった。昨夜から猛烈な雨が続いていた。 家の裏にあ…

磯釣り

日本海は8月になるとクラゲやメラなど、人の肌を刺す魚類が多くなるので泳ぐのはやめていた。メラとは体長3から5センチほどの、カマスの幼魚みたいな魚で、接触するとススキの葉で切ったときのような痛みが奔った。 夏休みのある日、いつも一緒に遊んでい…

春だ!

幽霊になった僕

高校でブラスバンド部に所属していた僕は、毎日、午後7時すぎに最寄り駅に帰着していた。 家は自転車で15分のところにあったが、駅周辺の集落を通り過ぎると民家が途絶えて、左手に大きくせり出した山すそを回って行かなければならなかった。 うっそうと…

春だ

小学校入学式

(絵は母校ではありません) 昭和25年4月1日、小学校に入学した。 母に連れられて生徒用玄関で僕の下足箱を探すと、すぐ見つかった。生年月日順になっているらしく5月生まれの僕は教室に近く上から2番目だった。下駄箱の前に敷かれているスノコ板の上…

寒行

チリんチリんと鉦の音がわが家に近づいている。集落内のお坊さんが寒行で各家の健康と安全を唱えて周っているのだ。 「今年も始まったなー」 祖母が寝具に包まったままつぶやいた。まだ午前3時ごろだ。 毎年一月の寒の入りから2月3日の立春まで、数百件あ…

獅子舞

静かな村に笛と太鼓の音が聞こえてきた。 なんだろうと村の入り口を見ると村周りの獅子舞がいた。 獅子は怖い。今まで獅子舞が来ると、いつも家の裏へ隠れてわが家が終るのを待っていた。今回も隠れるつもりだが、一軒ずつ周るので来るまでにはまだ余裕があ…

1月1日

1月1日 年の初めのためしとて 終わりなき世のめでたさを 松竹たてて門ごとに いおう今日こそ楽しけれ 唱歌・一月一日

汽笛

祖母の実家である親戚の最寄り駅は、ホームの東端から下り線鉄路を横断して改札があった。 列車から降りた僕らはホームを歩いて改札に向かう。ところが反対側ホームに停車待避していた機関車のすぐ横を歩かなければならない。 線路と通路の間に仕切りはない…

雨あがりの朝、僕は新聞配達をしていた。 東の空は青空が広がり、朝日がすばらしくきれいな朝だった。 谷あいの道路を自転車で走っていると、向かい側の山すそに「おー!」と思わず声がでるほど鮮明な虹が浮かんでいた。これまで見てきた虹は遠くの山と空に…

洞窟

これは人間の数よりキツネやタヌキなど獣が圧倒的に多い山奥の集落から、さらに山に入った森の中に、鴨長明の方丈記に出てくる庵のような家で独り暮らしている風流兄さんの話である。 天気のいい日は本業の左官や土木などの日雇い仕事以外に、畑や田んぼの野…

田植え祭り

5歳か6歳のとき、歩いて2時間ほどの山奥にある村へ田植え神事を観に行った。 小さな集落の一つの田んぼを大勢の人が取り囲んでいた。 いったい何をするのか分からないまま待っていると、集団で叩く太鼓の音が近づいてきた。 男の人6人ほどが派手に体を動…

わが家の井戸と流し台

井戸 深さの計測をしたことはないので目測になるが7、8メートル、さらに水深は2メートルほどもあった。 昭和13年の大干ばつのとき、飲み水にも困って掘った井戸だったが幸いにも山からの地下水脈に当たったため清水がドクドクと湧き出ていた。 一年中水…

風流兄さん

ある年、母の実家になる親戚の祭りによばれたとき、三男の兄さんが家を建てたということを聞いた母が興味を示し、「人に見せられるようなものではないですよ」と恐縮する兄さんを強引に案内させた。 兄さんは東京で左官をしていたが酒におぼれてしまった。あ…

僕の生家

明治35年(1902)11月棟上げ 昭和39年(1964)1月解体

海底を歩く

「海へ行こうか」 昼ご飯を食べたばかりのとき、めずらしく次兄が誘ってくれた。 「今からか」 歩いて40分ほどかかる海へ泳ぎに行こうというのだ、僕には考えられないことだった。 「どうってことないよ」 4歳年上の次兄は僕と遊ぶことはほとんどない。黙…

炭焼き小屋

正月前、祖母に連れられて木炭を買いに隣の山里まで行った。 「ごめんください」 祖母が入口の引き戸を開けて誘(おとな)ったが返事がない。すると祖母は戸を閉めてから庭の横にある山道を登って行った。 「どこへ行くん」 僕が聞いた。 「この上の炭焼き小屋…

違うなー

ふるさとの、わが家の前庭から納屋を望んだ絵を描いた。 出来上がって、よく見るとなんか変だ。 絵を描くとき己の、目の位置がどこにあるかを注意しながら描いているはずだが、この絵はずいぶん高い位置にある。これでは前庭にある高い木の上から俯瞰してい…

夏空

歩くしかない

「浅利の叔父さんのところへ用事に行って欲しいけどひとりで行けるか」 小学1年の秋、母が聞いてきた。 「うん」 盆や正月には祖母や母に連れられて行っていたから行き方は分かっている。不安はなく、汽車に乗れることがうれしかった。 国鉄運賃往復20円…

すずめのお宿

幼いころ祖母と一緒に行った「すずめのお宿」は竹林に囲まれていた。 なぜか僕も竹林の中の家に住みたいと思った。 「いつもジメジメして陽は当たらないし蚊が多い、あんなところは住むところではない」 祖母はけんもほろろに僕の思いをけなした。それでも「…

戸締り用心

6年の夏休み前だった。「夏休みに入ったら夜回りしょうか」 いつも3人で遊んでいるY君が言った。「いいな」 皆が賛成した。日が暮れれば遊びに出ることのない僕らだが、夏の夜に外を歩けば気持ちいい。 夜回りなら親も反対しないだろう。 親は皆が賛成だ…

涼み台

150坪ほどのわが家の屋敷内には、母屋と納屋の間に5本のミカンの木があった。いずれも幹の太さが直径で20センチほどもある古木で、ハッサク、夏ミカン、ネーブル、ダイダイと違う種類だった。 夏休みには、南側のミカンの木2本を利用して涼み台を造っ…

新聞紙

「駅前の豆腐屋へ行って油揚げを買ってきて」 村祭りの前日、祖母から言われた。 「よっしゃ」 僕は元気よく自転車を走らせた。店までは自転車で15分ほどかかる。 走りながら『油揚げを買うのになんで豆腐屋?』と疑問がわいた。でもいいや祭りには親戚の…

渡し船

県境近くの山村に叔母の家があった。僕の家からは汽車で3時間とバスで1時間かかったが、2歳年下の従兄がいたので春休みにはよく遊びに行き、夏休みは海水浴が目的で従兄が僕の家へ来ていた。 叔母の家の前に大きな川が流れていた。中国山地から日本海へ流れ…

堆肥撒き

5月、麦刈が終った田んぼに堆肥を撒く作業に取り掛かった。 昨秋に造った堆肥山を三ツ鍬で崩して負い籠で田んぼまで運ばなければならない。 鍬を堆肥山に打ち込み、グッと引上げて背負い籠に入れていった。湯気があがり暖かい空気が漂っている、発酵が進ん…

タヌキとムジナ

タヌキ アナグマ 僕の少年時からタヌキとムジナ、アナグマは同種として分類されていたが、僕は「違う」と反論を持っていた。 ムジナは人に対していたずらは仕掛けても危害を加えない、どちらかというと愛嬌のある獣だと思っていた。 僕が中2の夏休みだった…

堆肥

コメの取入れも終わり一段落ついた晩秋、来年のコメ造りにむけて堆肥を作っていた。 母が納屋に保管しているワラのうち昨年の古いワラを取り出して庭に積み上げた。 柿の木の横に長さ3メートルほどの丸太を立て、木を円心にワラの根元を外にして積み上げて…

船頭さん

♫むらの渡しの 船頭さんは 今年60のおじいさん 年はとっても お舟をこぐときは 元気いっぱい 櫓(ろ)がしなる ソレ ギッチラギッチラ ギッチラコ♫ 童謡・船頭さん (絵の説明・正面の山頂一帯は石見国都野氏の月出城跡、SLは2018年に廃線になった三江…