高校2年の春、国鉄の汽車で通学していた。
学校があるのは僕の家の最寄り駅から三つ目の駅だったが、その一つ手前の駅裏手で造成工事が始まった。
大きな工場が建つらしく、既存の町営住宅を別の場所に移し、さらに周辺の松林も切り開いて平地に造成した。
この町営住宅に住んでいた同級生が「松などの材木からショ糖を造る工場だ」と言った。
僕が通っているのは工業高校の工業化学科である。木材はブドウ糖(グルコース)が直線状に結合したセルロースからできていることは知っていたから、面白いと思った。
工場の完成は僕らが卒業する頃だ。
―ひょっとして、多くの社員を募集するかもしれない、特に工業化学科卒業生は優遇されるだろう。
大いに期待した。
ところが造成が終ったところで工事が止まった。
―どうしたのか。
僕の期待を裏切る様に工事は止まったままである。
造成地には草木が生い茂った。
ーどうなったんや。
3年のとき同級生に聞いた。
「安価な砂糖が大量に輸入されるようになったので、工場を造っても採算に合わないらしい」
同級生は言った。
―そんなこと、計画段階で分かっていたことだろう。
僕はひどくガッカリした。