温泉津町福光・遥かなる故郷

僕の少年時代(昭和20年から30年代)の思い出

軍鶏(シャモ)

f:id:hidechan3659:20160906113317j:plain

「隣の家へ、これを持って行って」
 母が回覧板を、ぼくに渡そうとした。
「いやや」
 即座(そくざ)に拒否した。その家にはシャモという恐いニワトリがいるのだ。小さな子供と見れば攻撃してくる。一羽しかいないが普通のニワトリより首が極端(きょくたん)に長く足も長い。体の羽根はほとんど抜け落ちて、見るからに精悍(せいかん)で戦闘的だ、鋭(するど)い目でにらまれたら足がすくんで動けなくなる。
「なんでや」
「恐いニワトリがいる」
「なんや、ニワトリが恐いんか、来たら追い払え」
 けっきょく回覧板を持たされて追い出された。
「やだな」
 ぶつぶつ言いながら、その家の前まで行った。
 じーっと庭を探したがシャモは見えない。裏庭にでも行っているのだろう。
―よし、今だ。
 玄関に走りこんだ。
「回覧板です」
 大きな声で、おばちゃんを呼んだ。
「賢(かしこ)いね、ありがとう」
 奥から、おばちゃんの声が聞こえた。
―よし、おつかいは終った。
 外を見回したが、近くにはいない。
「よし」
 ぼくは走った。そのとき、家の横からシャモが飛び出してきた。  

「はっ」として振り向いたら鋭い目つきでじろっと睨(にら)まれた。
 ぼくは懸命に走った。シャモが羽ばたきながらとっとっと走ってきて、後ろからぼくの両肩に飛び乗った。
 コツンコツン
 くちばしで、ぼくの頭を突いて飛び下りた。強烈な痛みが頭に響いた。
「だからいやなんだ、二度と行かないぞ」
 母に言っても笑っているだけだ、ニワトリに襲われることなんてあり得ないと思っているのだ。

 まもなく、このシャモもいなくなった、食べたということだった。
 ほっとした。これで遊びに行くことができる。
 それにしても、あんな痩(や)せっぽちの鳥を食べて美味(うま)かったのだろうか。