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温泉津町福光・遥かなる故郷

僕の少年時代(昭和20年から30年代)の思い出

大腸炎

 

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 小学2年の夏休みだった。夕方、動くのがしんどくて畳の上に寝ているのを母が見つけた。
 痛みがなかったので自分では「病気になった」という認識はなかったが、
「どうした」
 ぼくの額(ひたい)に手を当て、あまりの高熱に仰天した母は、ぼくを背負って隣町の医院へ行った。
「大腸炎だから今夜は熱が出るぞ」
 医師に言われ、その場で甘い水薬を飲まされた。
 薄暮の峠を帰る途中、突然、身体がじーんとしびれる感覚に襲われた。その瞬間、4、50メートル先の山すそにボワーンと、白い塊(かたまり)が現れて消えた。白い綿菓子を大きくしたような形をしていた。
 何回もでてきた。
 それが高熱による幻覚だということに気付かないぼくは、
「何だろう、あの山のところに白いものがでるよ」
 母に聞いた。
 母は返事をしなかった。振り向きもせず黙って足を速めた。白い塊は次から次へと現われたが母には言わなかった。
口(くち)にだせば怖がるだろう、と気付いたからだ。意識は鮮明だった。
 その夜、医師の言ったとおり高熱がでた。仰向けに寝ていると天井がゆっくり回転しながら下りてくる。
「天井が落ちる、天井が落ちる」
 両手で受け止めようとする。
 モスグリーンの蚊帳が赤色、黄色、白色とめまぐるしく入れ替わる。
「蚊帳(かや)が白いよ」
「黄色いよ」
 うわ言に家族はパニックになった。祖母は暴れるぼくを抱き起こし、額(ひたい)に数珠(じゅず)を当て、せわしなく回転させながら一心不乱に念仏を唱えた。
 隣家(となり)のおばさんが熱を下げる薬草をすりつぶして飲ませてくれた。
「青臭い」 
 と思ったが喉が渇いていたので一気に飲んだ。
 近所の人も集まってきた。皆はこのとき、ぼくの命(いのち)が危ないと思ったらしい。
 意識はしっかりしていた。
― なんで集まっているのかな。
 黙ってそこら辺にいる、それがふしぎだった。
 その後のことは覚えていない。
 翌朝、母の顔がひどく疲れきっていた。一晩中、井戸水でぼくの頭を冷やしてくれたということだ。
 午後、往診に来た医師が、
「体温が高い」
 と言って、看護婦に別の体温計を医院まで取りに行かせた。いつも持ち歩いている体温計は最高目盛が42度しかないのに、ぼくの体温が42度あるということだった。
1時間後、看護婦が持ってきた体温計で計り直したが42度だった。
そのときは、かなり沈静化していたときであり、いったい、昨夜はいくらぐらいまで上がったのか見当ががつかなかった。

 病気が治(なお)って、村の人に会うと、
「治ってよかったね」 
 と言ってくれた。
 普通、風邪や腹痛で2、3日寝ても、近所の人に知られることは少ない。
 ぼくの病気は皆に心配をさせたようだ。
 高熱がでれば脳に障害が残ることもあるという。ぼくは、なんの障害もなく完治した。
まさに奇跡としか言いようがない。