温泉津町福光・遥かなる故郷

僕の少年時代(昭和20年から30年代)の思い出

予感(1)

 9歳のときだった。となり村にある親戚の有線放送が「今朝、xxさん宅に泥棒がはいりました…」
 繰り返し放送していた。
「xxさんの家は、駅からここへ来る途中にある大きな地蔵さんの前の家か」
 ぼくの言葉に、
「どうして、その家を知っているの」
 伯母さんがびっくりして言った。年に一度、祭りの日に呼ばれて行くだけのぼくが、その家を知っているはずがないのだ。
「今朝、駅から来るときにその泥棒を見た」
 
 その日、朝1番の列車で親戚の最寄駅に着いたぼくと母は、閑散としている道を歩いて、その家の近くまで来たときだった。まだ薄暗い中、納屋の裏手を背の高い男が大股で足早に歩いて通りすぎていった。
 まだ10月というのに、その男は頭から首まで覆う毛糸の目だし帽を被っていた。
 そのとき、ぼくは急に自分の体が緊張するのを感じていた。男がこちらに気づいていないので恐怖心はなかったが、ジーンと身体が引き締まるような感覚を受けていた。
「そう言えばそのとき急に話が途切れた」
 母がぼくの話を聴いて言った。
「このことは誰にも言ってはいけないよ、後が恐いから」
 伯母さんが言った。
 
 その後、その泥棒が捕まったという話は聞かなかった。