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温泉津町福光・遥かなる故郷

僕の少年時代(昭和20年から30年代)の思い出

取り入れ

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      絵・稲刈(いねかり)

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      絵・稲架(はさ)かけ

 10月中旬、祖母が天気を気にしている。
 そろそろ稲刈りの季節だ。
「よし、今度の日曜日には稲刈りをするぞ」
 毎日夕方になると西の空を見ていた祖母が今週末には晴れると確信して決断した。

「起きろ、今日もいい天気だ」
 祖母が張り切っている。昨日は祖母と母の2人で、家近くにある1反の田んぼを済ませているから、今日は林地区の田んぼ2反を一気に刈り取る予定だ、すでに全員の弁当は出来あがって負い籠に入っている。
 急いで朝食を済ませ,夜が明けたばかりの田んぼに急いだ。
 
 早朝の田んぼは夜露で濡れていたが刈った稲は干すのだからおかまいなしだ。全員が長靴を履いているがズボンやシャツはたちまち濡れてきた。
 1株握って鎌で刈るとザクッと心地よい音がした。ぼくと次兄は稲刈り専用のノコギリ刃のようなギザギザの付いた鎌を買ってくれているので刈りやすいし怪我もしにくい。祖母たちは草刈り鎌だ。

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  絵・左が草刈り鎌 右が稲刈り鎌

         
 5株をまとめて藁で束ねようとしたがうまく結べない、祖母に教えてもらってやってもうまくいかない。
「5株ずつまとめて置いとけば、わしがする」
 とうとう祖母がぼくのを束ねてくれることになった。これなら刈り取って置くだけだから楽だ。
「よし、競争だ」
 と次兄と競争で刈り始めた。
 次兄が1人だけ別の方向に刈りながら進んでいる。刈り取った後をよく見ると自分の陣地を造っているようだ。
 「負けるものか」
 ぼくも皆とは違う方向へ進みながら陣地を造って行った。
「端から順に刈って行けや」
 祖母の忠告も無視して刈り取っていく。次兄の姿は見えなくなった。
 長兄は祖母や母と同じに黙々と働いている。
 
 12時を知らせるサイレンが鳴った。
 稲刈りの終わった場所にムシロを敷いて弁当を開いた。田植えのときは手伝いに来てくれた人がいるのでご馳走を作るが家族だけのときは普通の食事だ。負い籠にごはんのおひつと5人分の茶碗、箸を入れてぼくが背負ってきた。おかずは昨夜祖母が作った煮しめとコオコ(タクアン)を重箱に入れて持参している。お茶は大きなやかんをぼくが持ってきた。
ピクニック気分で楽しい。
 食べ終わったぼくは次兄の陣地へ偵察に行った。

「来るな、ここは俺の陣地だ」

 次兄は刈り取ったばかりの稲束を敷いて仰向けに寝転んだ。
「広い」
 ぼくよりずいぶん広い、でももうすぐぼくの陣地と合流するだろう。
「ここはもうすぐ終わるな」
 祖母が言った。今日の予定の半分が終わりそうだ。
「さあ、始めるぞ、一生懸命すればそれだけ早く終わるからな」
 昼の休憩もしないで皆が働き始めた。
 それから、30分も経たないうちに1反が終わった。
 すぐ残りの1反にとりかかった。

 ずいぶん西に太陽が寄ってきた。
「3人ではでごに稲を架けろや」
 祖母の合図で僕らは田んぼに散らばっている稲の束を担いで集めて行った。
 次兄がはでごに上り、ぼくが稲束を放り渡していき、長兄は集めていった。
 
 日暮れが近づいた。
 まだ1反の3分の1ぐらいは残っているが祖母も母も仕事を止めて帰り仕度をしている。
 次兄と交代した長兄がはでごに上り次兄が稲束を放り上げた。
「ほい」
「ほい」
 スピードを上げで稲束を架けていく。
 
 すっかり暗くなった夜道を帰るぼくたちを労わるように満月に近い大きな月が足元を照らしてくれている。
「今日は、皆よく働いた」
 祖母が満足そうにつぶやいた。
 残りの分は明日祖母と母の2人で刈り取るのだ。
 
 それから数日後の夕食だった。
「新米だよ」
 祖母が食べる前に両手を合わせ念仏を唱えた。
「え、この前刈り取った稲ははでごの上だろ」
「千刃で脱穀した」
 祖母がそっけなく言った。
 そういえば稲刈りが終わって家に帰るとき祖母だけ1架の稲を背負って帰って来たことを思いだした。
祖母は納屋の奥に仕舞ってある千歯を持ち出して脱穀し精米所で米にしていたのだ。
 「うまいなーさすが新米だ」
 みんなが大満足だった。

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     絵・千歯こき

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