温泉津町福光・遥かなる故郷

僕の少年時代(昭和20年から30年代)の思い出

タヌキ

 ある日、猟銃を持っている近所のおじさんが、タヌキを獲って意気揚々と帰ってきた。
 山里とはいえタヌキなんて姿を見たこともない。それーっとばかりに見に行った。
 大きなタヌキが両足をくくられて背負ったリュックに載っていた。
 口から血がしたたり落ちている。
― かわいそうに。
 ぼくは、なぜかタヌキに同情していた。
「タヌキ汁にすればうまいぞ」
 おじさんは誇らしそうに顔をくずして、タバコに火を点けた。
 まんまるに太ったタヌキだ。おじさんの家だけでは食いきれないだろうと思ったが、当時、この村では「お裾分(すそわ)け」という風習がなかった。受け取るほうが嫌がったからだ。
「うちは貧乏していても他人からめぐんでもらういわれはない」と。
 おじさんの家ではタヌキ汁を食べたのかは知るよしもないが、1ヵ月後、近所の姉さんがりっぱな首巻(くびまき=えりまき)をしていた。この前、獲ったタヌキの変わった姿だった。びっくりするほど上手に作ってあった。止め具も付いて町で買う物と同じだ。おじさんに頼んで作ってもらったということだった。
「いいな」
 つややかな毛を、皆がうらやましそうに手で触ったり、頬に当てたりして感触を楽しんでいた。
 だが、口からしたたり落ちる血を見ていたぼくには気持ち悪くてしかたない。
―タヌキが化けてでないだろうか。
 ぼくには触る勇気がなかった。

 追記
 前回投稿したときに、「タヌキは臭くて食すことはできず、鍋までだめにしてしまう」という御意見をいただきました。
 私も中学生のとき、同級生が捕獲したタヌキをダンボール箱にいれて学校へ持ってきたことがありましたが、とても臭かったという記憶があります。
 昔話や民話にタヌキ汁の話がありますが、そのタヌキはアナグマであったのだろうと言われています。
 私のふるさとでも、タヌキ、アナグマ、ムジナの3<大></大>種を区別せずにタヌキと呼んでいたように思います。

f:id:hidechan3659:20160907193625j:plain  絵・タヌキ

f:id:hidechan3659:20160907193719j:plain  絵・アナグマ