温泉津町福光・遥かなる故郷

僕の少年時代(昭和20年から30年代)の思い出

肝油(カンユ)

「なにも見えん、便所へ連れて行ってくれ」
 祖母が両手を前につきだして手探りしている。油を使った食べ物の嫌いな祖母がときどき発症する夜盲症なのだ。明るいところでは何不自由なく見えるのに暗いところでは何も見えなくなる不思議な病だった。だから「鳥目(とりめ)」ともいう。

 翌日、祖母は隣町で鯨(クジラ)の肝油を買ってきた。黄色い粘りのある液体だった。祖母が盃にいれた肝油を「ゲボ、ゲボ」とえずきながら喉を通過させた。
 2日後、すっかり鳥目の治った祖母が言った。
「この薬は、健康にいいぞ、飲め」 
 その言葉につられて容器兼用になっているキャップ1杯を口にいれた。
「ゲボッ」とえずいて涙が出てきた。どろっとした生臭い魚の油そのものだった。
 とてものことで飲めるものではない。二度と口にしなくなった。