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温泉津町福光・遥かなる故郷

僕の少年時代(昭和20年から30年代)の思い出

大掃除

「起きろ、天気がいいぞ」
 4時半にたたき起こされた、外はやっと明るくなり始めたところだ。
「今日は忙しいぞ」
 祖母と母がいやに張り切っている。
 毎年夏休みに実施する大掃除だ。
 早々に朝食を済まして、ただちに畳あげにかかった。畳の裏に書いてある番号を板切れに描いた図面に書き加えていく。これは長兄の役目だ。
「間違うなよ、入らなくなるぞ」
 祖母の指示が飛ぶ。
 14枚の畳を庭に持ち出して2枚ずつ合わせて山型に立てた。
 外側にしている畳の裏が朽ち、糸がほつれてぼろぼろになっている。
「他人(ひと)に見られたら恥ずかしいな」
 長兄が破れの目立つ畳を庭の奥に持っていった。
「しゃーないよ、金銭(かね)がないんだから」
 母は平然としている。
 庭はすでに夏の太陽がぎらぎらと当たっていた。
 祖母と母が床下(ゆかした)をていねいに掃除していく。重くかび臭い空気が漂ってきた。
 長兄が殺虫剤のDDTを素手でつかんで床下に散布していった。湿(しめ)った土に粉雪が降ったように白い粉が広がっていく。
 ここで作業は一時中断だ。あとは、畳の中に居るダニが暑い夏の太陽に熱せられて死滅するのを待つだけだ。祖母と母が家の横にある畑を耕やしはじめた。
次兄は遊びに出て行った。

 四方を山に囲まれた村を太陽が通り過ぎるのは早い。午後の4時をすぎたばかりなのに、もう、陽が西の山を越えてしまった。
「さあ、はじめるか」
 祖母の合図により大掃除再開だ。畳を敷く床板をきれいに掃いて真っ白になるほどDDTを撒いた上に新聞紙を敷き詰めた。これでどんなに強いダニやノミもいちころだ。
 庭では母と長兄が竹の棒で畳をたたいている。
パーンパーン、派手な音が村に響き白いほこりが空に舞い上がっている。こんな埃の中で生活してきたのかと驚く。
「できたぞ」
 祖母が屋内の用意ができたと知らせた。
 長兄と母が気合とともに1枚の畳を2人で抱えて室内へ運んでくる。
「これは東角だ」
 長兄が板に書いた配置図を見ながら畳を敷いていく。
「静かに敷いていけよ、DDTが飛ぶぞ」
「あれ、入らないぞ」
 最後の1枚がどうしても納まらない。
「干したから脹(ふく)らんだろうな」
 母が畳の横を蹴るのと同時に長兄が飛び跳ねた。
すぽっと畳が納まった。

 これからがぼくの出番だ。祖母にいいつけられて次兄と2人で庭の掃除にかかった。次兄は家の横、ぼくは前庭と別れて竹箒で掃いていった。
 祖母が室内をきれいに掃き、母と長兄が拭き掃除をはじめた。
「終わったぞ、今日はよく働いた」
 総監督祖母も満足そうだ。日干しされた畳から発散する匂いが香ばしい。
「今日の夕ご飯はライスカレーにしようか、店へいって『福神漬』を買ってきて」
 母から蓋のついた食器と100円を渡された。
「やった」
 ライスカレー福神漬も大好物だ。