温泉津町福光・遥かなる故郷

僕の少年時代(昭和20年から30年代)の思い出

村民大運動会

 家族皆が寝る態勢になって寝具の中にいる。
明日晴れるかな
 僕がつぶやいた。明日は村民大運動会だ、なんとしても晴れてほしい。
「心配ない、晴れるよ。背戸でフクロウがノリツケホーソと鳴いている。『糊を付けて干そう』と言っているのだ」
いびきをかいて寝ていた祖母が、眠りのモードに入った声で答えた。

 すばらしく良い天気だ、11月の秋空はどこまでも高く透きとおっている。
 今日は村の小学生と中学生、それに村人が参加する大運動会だ。
 母と祖母は朝早くからご馳走を作っている。
 
 次兄が新聞紙で巻いて作った棒を武士の刀のようにベルトにさした。
今日の騎馬戦で体格の小さい次兄が騎士になったのだ。体は小さくてもわんぱくさでは誰にも負けない。昨夜、新聞紙を巻いて紙筒を作っていた。新聞紙全体に糊をべっとりと塗って硬く巻いてゆき、空洞の無い棒を作り上げた。ずっしりと重く樫(かし)の木のように硬くなった。
「これなら相手を叩いても絶対に折れないぞ」
 ぼくの頭を軽く叩いた。こつんと音がした。
「痛たー」
 とてつもなく痛かった。次兄は、この棒で相手の額(ひたい)にぶら下げた風船を叩き落とすのだ。
「そんなんで叩いたら相手にこぶができるぞ」
「それがねらいさ」
 次兄が意気揚々と出て行った。
 
 運動会は小中学校とも学年別に100メートル競走とマスゲームが行われ、大人は短距離競走、借り物競走、パン食い競走などがある。
 いよいよ騎馬戦だ。みんながわくわくして戦闘開始を待っている。
 次兄は赤組だ。
「パーン」
 競技用ピストルの音を合図に、場内に歓声がわいた。先頭に立って突っ込んだ次兄が相手の騎士をめった叩きにしている。
「バシッバシッ」と容赦ない音が場内にとどろいた。
 そのとき、ふしぎなことが起きていた。次兄の棒が折れているのだ。
 皆の棒も折れている。折れた棒で叩こうとしても力が入らない。ついに、次兄は棒を捨て素手で敵の風船を取り出した。相手がめった叩きしてくる中を敢然と突っ込んで風船を取っている。がき大将をいかんなく発揮して相手の風船を落としていった。
「すごいぞ、おまえの兄ちゃんはすごいの」
 同級生に言われてぼくも得意になった。

「どうしたんだ、折れるような棒ではなかったのに」
 その夜、次兄に聞いた。
「あれは先生に取りあげられた。代わりに渡されたやつは軟(やわ)でだめだ、すぐ折れてしもうた」
 次兄は不服そうに頬をふくらませた。

 長兄も次兄も、ぼくも運動は得意だったから3人とも1着の賞品を貰っていた。学校で使うノートと頭に消しゴムのついた鉛筆2本セットだった。
 ちなみに2着はノート1冊、3着は鉛筆1本だけだった。4着以下はなにもない。
 ノートも鉛筆もとてもいい香りがした。鼻にくっつけて匂いを楽しんだ。
 匂いを嗅ぐのは、ぼくの癖だった。