温泉津町福光・遥かなる故郷

僕の少年時代(昭和20年から30年代)の思い出

朧月夜(おぼろづきよ)

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菜の花畑に入日うすれ

みわたす山のは

かすみ深し

春風そよ吹く空をみれば

夕日かかりて匂い淡し

   童謡・朧月夜

 

 6年になって新学期初めての音楽の授業だった。
「今、菜の花が満開だね、これにしょうか」
 やや緊張ぎみの女先生(おなごせんせい)が音楽の教科書をペラペラとめくり、
「8ページを開けて」
と言った。
 オルガンを軽やかに弾きながらいきなり歌いだした。
「おぼろ月夜」だった。
 教室いっぱいに響く声量にびっくりした。きれいな声だった。
 新学期初めての授業のときは先生も自己紹介をして、それから生徒の点呼をとりながら名簿の氏名と顔とを見比べ覚えようとする先生がほとんどだった。
 今日の先生は自己紹介もせずいきなり歌いだしたのである。教師になって初めての授業だったから先生も緊張していたのだろう。
 ぼくらは、唖然としていた。
 小学校では、担任の女先生がすべての教科を教えていたが、5年からは男の先生が担任になったため、音楽は女先生が受け持っていた。
「こんどの新任先生は、音楽が専攻らしいぞ。音大を卒業したばかりだ」
と誰かが知ったかかぶりで言っていたが、うそではなかった。
 おりしも、村の田んぼは菜の花が満開だ。先生の歌は上手だ。
 たちまち、ぼくも「おぼろ月夜」を歌えるようになった。
 音楽の時間を心待ちした。

 そのころ、食用油といえば菜種油しかなかったから、菜種を栽培する家庭が多かった。
 春、村中の田んぼは菜花の黄色と麦の緑に染まった。
 山に登ると大きなパッチワークを見るようであった。