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温泉津町福光・遥かなる故郷

僕の少年時代(昭和20年から30年代)の思い出

マツタケ

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 毎年10月中旬から半月の間、寺の裏山に松茸が生えた。
 朝早く、学校へ行くカバンを持って祖母と山に入るのが日課となる。
 やっと明るくなってきた村は閑散として人影もない。祖母とぼくは自分たちの足音さえ、はばかるように黙々と歩いた。なにも悪いことはしていないのに払暁の静けさがぼくらの気持ちを、そのようにさせたのだった。
 村はずれの田んぼ脇で、近所のおじさんがはでご(刈り取った稲(いね)を乾燥させるための棚のことで、横幅10メートル、高さ3メートルほどもあるものが多かった。=稲架(はさ))に仕掛けた霞網(かすみあみ)からすずめを獲っていた。夜明けとともに朝食にありつこうと、はでごの稲に首を突っ込んだまま、網にひっかかって逃げられなくなっている。おびただしい数だ、足元に置いたバケツもいっぱいになっていた。朝の挨拶を言う祖母にも、照れくさそうに目礼を返しただけだ。
「かすみ網は禁止されているのに、あんなことをして」
 祖母がつぶやいた。だから、照れくさそうにしていたのだ。
「あんなに多くのすずめ、どうするんだろか」
「食べるんだよ、焼いたら香ばしくてうまいらしいけどな」
 ひそひそと小声で祖母が話した。
 山道は上り坂になった。朝露にズボンが濡れるのも無視して登って行くと、10分で尾根に着いた。
 尾根から東側に少し下った辺り、海からは反対側の斜面にマツタケが生える。
多いときで4、5本、全く採れないときもある。
 山を下りると祖母は家へ帰り、ぼくは学校へ行く。
 マツタケは毎年同じ場所に群生する。だから、よく生える場所を見つけたら、「城」といって誰もが秘密にしていた。その場所は誰にも教えない。
 ある年、隣のおばさんと一緒に山へ行った。
「おばさんは自分の城を持っているからな、そーっと後をつけて、場所を見つけろよ」
 祖母に言われていたが、おばさんは、いつのまにか行方が分らなくなった。しばらくして、ぼくらの前に姿を現したときには、腰の袋がおおきく脹らんでいた。
 
 日曜日には祖母と二人で寺の裏山から尾根に沿って松茸を採りに行った。半日歩いて、2、3本しか採れなかった。
 ある日、「ちょっと、これを見て」
 祖母が指さす先には朽ちかけた大木が横たわっていた。そこには、黄土色の茸が3センチほどの傘を広げて群生していた。
「これは、『金茸』といってな、味噌汁に入れると美味いぞ」
 祖母は1本づつ慎重に採っていった。これが『ナメコ』だった。

 中学生のころ、近所のおばさんと裏山へ登った。
密生しているシダの中を歩いていると、畳1枚分ほどの空き地がでてきた。その中に、大きな笠を広げたキノコが5、6本1列に並んでいた。笠の直径が20センチメートルを超える大きなものだ。そのうえ、笠は不規則に波うっている。何かのキノコであろうと思って2人は通り過ぎたが、色がマツタケに似ているので、なにげなく1本とって匂いをかいだ途端、びっくりした。
「マツタケだ」
 あまりにも大きいので新聞に投稿しようかとも思ったが、その連絡先もわからないことから諦めた。
そのマツタケは笠が開ききっていたので味は悪かった。

 高校生のとき、兄が隣町の友から、縄張りがしてある松茸山のことを聞いてきた。
「昨年までは店で売っていたが今年は売るのをやめたらしい、あの山へ行けばマツタケがあるはずだ」
 ということだった。 
 家(うち)の裏山から行けば、そんなに遠くではない、当時、マツタケは、どこの山のものを採ってもよかったが、商売用としている山には縄が張ってあった。こういう山では、マツタケを採ってはいけない。採っているのを見つかればしかられる。ただ、そのころは、窃盗といった認識は誰れももっていなかった。
 兄と母が、
「夕方5時を過ぎてから行けばいい」
と、声を細めて話していた。
兄とぼくの2人で行くことになった。万が一、見つかったら山の中を走って逃げるためであるらしい。
その山に着いたときは、すでに薄暗くなっていた。2人は、木の陰に隠れながら近づいて、じっと様子をうかがい、誰もいないのを確認してから縄張りの中に入った。
「マツタケの笠の裏は白いから、斜面の下から見上げれば探しやすい」
 兄が小さな声で教えてくれた。「なるほど」と感心しながら斜面を見上げると、あちこちに白い笠の裏が薄暮の中に幻想的なほど白くう浮かんでいた。
わずか10分の間に一斗袋(10升の米を入れる白い布袋(ぬのぶくろ))が一杯になった。
 サンタクロースのように、大きく膨らんだ布袋を肩に担いで、暗くなった山道を懐中電灯を頼りに家へ帰った。空にくっきりと浮いている月は丸みを欠いていた。
 
 翌年、頃合いを見計らってその山へ行ってみると、松の木を伐採してまる裸になっていた。

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