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温泉津町福光・遥かなる故郷

僕の少年時代(昭和20年から30年代)の思い出

メジロ

 

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 家への引き込み電線にハトが二羽止まっていた、ぼくに背を向けている。下にぼくがいることも知らないようであった。

ー よし、獲ったる。
 後ろポケットに差し込んでいたパチンコを取り出してハトを狙った。
 手ごろな小石を拾って玉にし、パチンコのゴムを思い切り引き伸ばした。まだハトは止まったままである。
 狙いを定めて玉を放すとピューとハトめがけて飛んで行った。
ーしめた当たる、と思った瞬間、ハトはクルリと身を躱して飛び立ち、ぼくが放った玉を追った。ハトは獲物と間違えたようだった。

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 庭にある椿の木から、野鳥の鳴き声が聞こえている。つがいのメジロがせわしなく動きまわり、花にくちばしをいれて蜜をついばんでいるようだ。
 メジロを飼いたいと思った。
 春は野鳥たちの恋の季節だ。
 メジロを捕るのは春が一番だ。
 思いついたら直ちに実行する、それがぼくの性格だ。
 まず鳥籠を作らなければならない。裏山の竹を切って、1本づつヒゴを作り、梁や柱となる竹の枠に穴を開けて組み立てる。単純な作業を、せっせとつづけて1日で完成させた。

 

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 つぎは、トリモチだ。裏山から採ってきたトリモチの木の皮を、5日ほど水に浸けてから、小川の水の中で木槌代りの木枝で叩いていく、根気よく叩いていると粘々(ねばねば)としたトリモチができた。これを裏山の、野鳥がよく止まっている木の枝に塗った。
あとは気長に待つだけだ。
 毎日、トリモチを交換して、メジロが来るのを待つ。メジロは、なかなか捕れない。そのうち、仕掛けていることさえ忘れてしまうこともある。
 ある年、メジロが蝙蝠(こうもり)のように枝からぶら下がっていた。
 トリモチを塗った枝に止まると、足が粘着して逃げることができない、逃げようともがき疲れ果てて動くこともできなくなっている。
 足を骨折させないように慎重にとりはずして籠に入れた。
 メジロは逃げようと、繰り返し籠にぶち当たっている。
「このままでは傷ついて死んでしまうぞ、3日ほど籠に風呂敷を被せておけ」
 長兄が唐草模様の大きな風呂敷で籠を覆い隠した。
 メジロがおとなしくなった。
 餌はハッタイコ(麦粉)に青菜を混ぜ、すり鉢で水を加えながらすりつぶすとできあがりだ。
 ハッタイコは麦を炒って粉にしたもので、砂糖を混ぜて食べると香ばしくてうまかった。ただ、非常に軽い粉だったので、食べるときに、うっかり息を吸ったら粉が気管にはいってしまう。
しばらくは呼吸ができないほどむせてせき込み、非常に苦しい思いをしなければならなかった。
だから水で練って食べた。
「このメジロはよく泣くからオスだろうな、メスならこれをおとりにしてオスを捕まえることができるんだがな、でもオスに近寄ってくるメスだっているかもな」
 長兄は2階建てのメジロ籠の作り方を教えてくれた。1階部分に捕まえたメジロを入れて、2階部分を落とし蓋(ふた)にしておき、鳴き声に誘われたメジロが2階部分に入るとパタンと蓋が閉まるものだ。
 さらに1日費やして作った籠の1階部分にメジロを入れ裏山のビワの木にぶら下げた。

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 籠に慣れたメジロは飛びはねながら元気よくさえずる。
 数日間仕掛けたが一向に捕まらない、庭の椿の花にはメジロが群がってくるので椿の木に移したら寄り付かなくなった。
 ある日の夕方、めじろは籠の中で死んでいた。百舌鳥(もず)に襲われたらしく、顔をつつかれ目玉が無くなっていた。ふしぎだった。籠の中央でじっとしておれば助かるものを、逃げようとパニックになり籠の壁にぶち当たって終いには百舌鳥に捕まるらしい。
 空になった籠を見つめ悔しがってもどうしょうもない。
 メジロは、そんなに容易く捕れるものではない。
 籠は、いつまでも空のまま軒下にぶら下がっていた。