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温泉津町福光・遥かなる故郷

僕の少年時代(昭和20年から30年代)の思い出

尾行者

 高校3年の夏、松江において高校野球の県予選が行われていた。
 いつもは、一次予選で敗退するわが高校がベストエイトへ進んだ。
 全校生徒が松江へ行って応援することとなった。ブラスバンド部のもっとも張りきるときだ。ピッコロを担当していたぼくもガンガンならして応援した。
 また、勝った。次はベストフォーだ。
「甲子園へ行けるかも」
 期待は膨らむ。
 だが、試合中、一部の生徒が発する「ヤジ」が、ラジオ中継のアナウンサーに「あの高校のヤジは悪評がありますからね」と、指摘されていた。あきらかに耳障りだという言い方だった。ラジオを聴いていた校長が激怒して、応援はブラスバンド部だけでいい。ということになった。ブラスバンド部だけが松江の旅館に泊まって応援することになった。
 
 その夜、夕食も済んでから、松江城へ行って見ようかと、5人で夜の城山へ向かった。
 大手門を通り過ぎたころ、ふと、尾行されているのに気づいた。つけているのは30代前後の男と女だ。
「なんのために俺らをつけるのだ。つかまえて訊(き)いてやろうか」
 意気込んで1人が言った。
「やめとけ、それよりどこまでついてくるか、ひっぱりまわしてやれ」
ということになった。尾行されていることに気づいていない風をよそおって、わいわいがやがやと話しながら、城内を抜けて町にもどり、あちこち歩きまわった。あいかわらずつけてくる。
「あいつら警察か」
「女の警察官なんていないぞ」
 小さな声で、尾行者を詮索(せんさく)したが、いったい誰なのかはわからない。結局、1時間近く町の中をぶらついた。
「もう、いいだろう」
 ぼくらは、旅館にもどった。
「お前らの尾行に気づかないほど馬鹿ではないぞ」とばかりに、尾行者へ手を振って旅館に入った。
 尾行者は、旅館の前まで来ると旅館名を確認して立ち去った。
 尾行者が誰だったのか、分からなかった。
 その後、どこからも何も言ってこなかった。
 
 学生服を着た男子生徒5人が、夜の街を徘徊し、暗い城山へ上ることは、明らかに一般的ではなく、異常と思われてもしかたのないことだったのだが、そのとき、ぼくらは、「なにも悪いことなどしてない、なんでつけるのだ」としか思いめぐらなかった。