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温泉津町福光・遥かなる故郷

僕の少年時代(昭和20年から30年代)の思い出

ライフライン

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   絵・ツルハシ

 
 高校生の夏休みにアルバイトをした。
 日当250円、そのころの女性の日当と同じ額だった。
 村に水道を設置するため、道路に幅50センチ深さ1メートルの溝を掘る仕事だった。
 現在はショベルカーで容易く掘り進んでいるが当時そんなものはない。僕とペアを組んだ隣町の高校生K君と2人で、ツルハシを使って固い土を崩す仕事をいいつけられた。
 踏み固められた道は固いため、ツルハシを力いっぱい振り下ろして少しずつ掘り進まなければならない。ときどき、大きな岩石に阻まれることがある。このときは監督自らタガネと金槌で破砕してくれた。

「それ」「それ」と気合を発しながらツルハシを振り上げ勢いを付けて振り下ろした。
「そんなに勢をだしたら体が1日もたないぞ、1日分の仕事を配分するつもりで、ゆっくりと体力を保ちながら働くものだ」
 監督が教えてくれた。
 僕らの後ろを日雇いのおばちゃんが柔らかくなった土を鍬(くわ)でかき集めて溝の外に出している。
 炎天下のアルバイトだ、汗をだくだくと流しながら掘っていった。
 喉が渇く、やかんに口をつけて水を飲む、この繰り返しだ。
 家から持参した水筒代わりのやかんに近くの家の井戸から水を汲んで、がぶ飲みしていた。
 3日目だった。体の異変がでてきた、体がだるいのだ、とにかくだるい。
「しんどい、しんどい」
 とぼやきながら働いていた、そのとき、
「これを舐めてみろ」
 後ろで働いていた監督がひとにぎりの塩をくれた。
「美味(うま)い」
 飛び上がらんばかりに驚いた。ふだんは塩辛いだけの塩が美味(うま)いのだ。
「どうだ、それが特効薬だ」
 監督がにやにやと笑っている。
「なんで塩なのに甘いの」
「体内の塩分が汗といっしょに外へでてしまうから身体が欲しているのだ」
と教えてくれた。
 今までのだるさが嘘のように消え去って力強さがでてきた。
それからは、塩を入れた袋を腰のベルトにくくってアルバイトにでた。

「おれの弟子になれ、りっぱな監督にしてやるぞ」
 ある日、僕の仕事ぶりを見ていた監督が言った。
 毎日、暑い暑いとぼやいて「将来は冷暖房付屋内での仕事につくぞ」と思っていたときだったから、
「土方(どかた)なんて」
 と言ってしまった。土方仕事を馬鹿にする言い種(ぐさ)だった。(反省)
 監督は気分を害したようだったが何も言わなかった。
 その後、日本は高度経済成長、列島改造等々、地方は道路建設、河川改修とめまぐるしく変わり、土建業者も見る見るうちに成長した。
監督は建設会社を立ち上げ、今は、お城のような大きな家に住み、今の僕とは較べるのも畏れ多いほど裕福な生活をしている。
 あのとき、僕も土建屋になっていたら、また別の人生があったのだろう。

 力仕事をすれば腹が減る。これは当たり前のことだが、日々、ご飯の量が増えてゆき、ついには弁当箱二つ分に相当するブリキの菓子箱を弁当箱とした。大人の人が「すごいの」と唖然とするなか平然とたいらげていた。
弁当は近くの家の陰か木陰に座って食べた。
村はずれの峠道で作業していたある日、近くに家はなく道の両側は木の生い茂った雑木林で中に立ち入ることは不可能だった。大人たちは道端に座って弁当を広げていたが木陰は少なく、皆が汗を流しながら食べていた。僕と相棒のK君は、すぐ近くに新設中の道路があり、その下を新しい土管が横切るように埋めてあるのを見つけた。中に入ると直径150センチほどのコンクリート製の土管はひんやりとした冷気が漂って気持ちの良い空間だった。
「天然クーラーやな」
 僕らは気に入って、そこを休憩場所にした。
 このとき、ふと思いついたことがあった。
「マイホームを山際に建て、山にトンネルを掘って、その中に寝室を作ったなら、1年中一定温度で気持ちの良い部屋になるだろう」
 と思った。夏は涼しく冬は暖かい、このような寝室なら冷暖房もいらず気持ちよく寝ることができるだろう。
現実味のない空想だった。

このアルバイトをしながら思った。
「将来は、日本中すべての道が2階建てで、1階部分は地下に埋設されてトンネルになり、電気、水道、ガスや排水溝などすべてをこのトンネル内に通し、2階部分は自動車道や人道となる」
 こうすれば修理や点検が楽になる、道路を掘り起こさなくてもいい。
 30年後には実現するだろうと思った。

            ※     ※

 あれから半世紀が過ぎた。
 日本の道は、なんにも変わっていない、相変らず掘ったり埋めたりを繰り返している。
 平成25年6月、テレビを視ていて驚愕した。
 現在、東京の都心では国道すべての地下に壮大な共同構(トンネル)があり電気、水道、ガス、通信等ライフラインが通っていたのである。その長さ数万キロに達しているという。
テレビに映し出された構は僕のイメージしていたものよりはるかに巨大であった。
但し、この共同構は秘密であり、出入口等の場所は明かさない。ということであった。
万が一、この共同構がテロ等により制圧されれば東京は麻痺、壊滅するおそれがあるからである。僕の考えの及ばない一面があった。