温泉津町福光・遥かなる故郷

僕の少年時代(昭和20年から30年代)の思い出

薪(たきぎ)

絵・大八車 絵・背負子(しょいこ) 雪の到来を前に風呂焚きやカマドの燃料にする薪(たきぎ)を確保しておかなければならない。ヤナイゴ谷の山から雑木を切り出して家(うち)まで持ち帰ることになった。 大八車(だいはちぐるま)があれば一回に多くを運ぶことが…

籾摺り(もみすり)

絵・籾摺り機(もみすりき)による作業 絵・発動機(燃料は重油) 毎年、12月23日か24日のいずれか天気のいい日、秋に脱穀した籾から玄米を取り出す作業(籾摺り)をした。これは機械がいるので、近所のおじさんに依頼していた。 朝早く、おじさんは籾…

消し炭

木炭は火が点(つ)きにくいので、やわらかくて燃えやすい消し炭を混ぜていた。 消し炭は風呂の残り火を素焼きの壷(つぼ)に入れて作っていたが、冬のコタツに使うにはとうてい足りないので、ひと冬用の消し炭を作ることになった。 米の取り入れも終わり、農作…

大風(おおかぜ)

いつもは静かな山村に不気味な音が殷殷(いんいん)と轟(とどろ)いている。 誰も経験したことのない現象に村の人たちは不安に陥(おちい)っていた。 野良仕事をしていた人たちが集まってきた、だれもが不安な顔をしている。「何の音だろう」「地鳴りのような低…

雪だ

ゴーゴーと山を揺るがしていた木枯らしがぴたりと止んで、村の中が不気味なほど静かになった。「ポー」 山陰本線を走る汽車の汽笛が幾重(いくえ)もの山を越えて、かすかに聞えてきた。もの悲しく侘(わび)しい音だ。静かな夜だけに聞える現象だった。 ふと、…

キツネ

木枯らしが山の木々を振るわせ「ゴーッ」と音を立て通り過ぎている寒い冬の夜更けだった。 風の音を聞きながらぼくは、すっぽりと夜具のなかに潜り込み、コタツからの温もりを全身に受けて心地よく寝ていた。 生き物すべてが寝静まっている村のなかを隣町方…

タヌキ

ある日、猟銃を持っている近所のおじさんが、タヌキを獲って意気揚々と帰ってきた。 山里とはいえタヌキなんて姿を見たこともない。それーっとばかりに見に行った。 大きなタヌキが両足をくくられて背負ったリュックに載っていた。 口から血がしたたり落ちて…

参観日

年にいちど学校へ父兄がやってくる。 授業参観日だ。 ぼくらは教室の窓から村道を見ていた。 次々と顔見知りの母親が集まってくる。「○○君のかあちゃんだ」 大きな声で知らせてやる。「××君のかあちゃんだ」「お前のおばあちゃんが来たぞ」「ほんまか」 ぼく…

化け猫

母の実家は、もより駅から歩いて1時間もかかる山奥にある。 親戚へ行くのは、いつも朝一番の汽車で行っていたから、もよりの駅に着いたときはまだ暗く、周辺の山がかすかに姿を現しはじめた道を歩いて行った。 ぼくは村はずれにある一軒家の前を通るのが苦…

お菓子

バラ売りの飴(あめ)は1粒1円、粒(つぶ)が大きくて丸い飴玉は2円、20粒入りのキャラメルが1箱20円だった。 ぼく1人にキャラメル1箱を買ってもらうことはほとんどなく、たまに10円をもらって飴を10粒買った。 解けてなくなるまで口の中を行ったり…

自転車

中学を卒業した長兄が隣町に就職して通勤用の自転車を買った。ぴかぴかの新車だった。 次兄もぼくも自転車に乗りたいと思ったが大人用自転車なので、身長の低いぼくには乗れない。長兄は気前よく貸してくれたので次兄はすぐ乗れるようになったが、ぼくは3年…

水晶

次兄が水晶を持って意気揚々と帰ってきた。煤(すす)けた色をしていて透明性に欠けるが長さは10センチほどもある大きな六角柱状のものだった。「どこで見つけたんや」 必死になって聞き出そうとしても教えてくれない。「兄弟だろ、教えてくれてもいいじゃな…

徴発(ちょうはつ)

これは遠縁にあたる叔父さんの話なのだが、本人の名誉にかかわることなので名は伏せておく。 その親戚は、もよりの駅からバスで1時間もかかる山奥にあった。 叔父さんは電報配達をしていた。そのころは未だ電話が普及していない時代だったから緊急の連絡は…

蟯虫(ぎょうちゅう)、蛔虫(かいちゅう)

汚い話で恐縮だが・・・ 年に一度、学校で検便があった。その日は、大便をマッチ箱にほんの少しだけ入れて学校へ持っていった。 3年生のとき「暁虫がいる」との結果がでた。 駆除するため土曜日の晩飯から日曜日の昼飯まで断食して薬を飲んだ。「この薬を飲…

蚤(ノミ)

「ガーガー」といびきをかいて寝ていた祖母が、突然布団の中から起き上がった。「蚤(ノミ)がいる、獲ってくれ」 おもむろに腰巻をとってぱっと広げた。 ぼくがじっと見つめる。暗い腰巻の下でのんびりと人間の血を吸っていた蚤は、突然明るい電灯に照らし出…

虱(シラミ)

太古の時代から人間の体に寄生して血を吸い、病原菌を媒介するいまわしいやつ、それが虱(シラミ)だった。 虱は髪の毛や衣服などに卵を産み付ける。あっというまに「黒い髪の毛が白く見えた」というほど群れて取り付く。噛まれたら痒(かゆ)いので、手でぼりぼ…

肝油(カンユ)

「なにも見えん、便所へ連れて行ってくれ」 祖母が両手を前につきだして手探りしている。油を使った食べ物の嫌いな祖母がときどき発症する夜盲症なのだ。明るいところでは何不自由なく見えるのに暗いところでは何も見えなくなる不思議な病だった。だから「鳥…

バナナとリンゴ

そのころ、バナナは1本の値段が40円していた。女性の日雇(ひやと)い仕事が日当で250円という時代だったから非常に高価な果物だ。1年の間に1回か2回、1本だけ買うことがあった。 1本を5人で等分するのだから、ひとり当たりでは数センチしかない。…

馬車(ばしゃ)

昭和35年(1960)ごろまでは、村のなかを馬車がよく通った。 材木を山から港や駅まで運ぶ荷馬車だ。大きな丸太を山のように積んで「フーフー」と荒い息をはきながら、ゆっくりと、それでも力強く曳(ひ)いて行く。なにしろ1馬力だ。 1台で4、50本…

砂糖

「こんばんは」 玄関から小さな声がした。近所のおばさんのようだ。応対している母もひそひそと小さな声で話をしている。 おばさんはそそくさと帰って行った。「なんの用だ」 なにも聞えなかった祖母が不服そうに聞いた。「○○さんが村会議員選挙に出るんだっ…

長兄の勉強机が必要だということで、地元の大工さんに作ってもらうことになった。「あんな、呑(の)ん兵衛(べえ)に作れるものではない」 母が言うのも無理はない、その大工さんは1日中、焼酎を飲みいつも酔い潰れて他人の畑や道端に寝転んでいる。兄ちゃんが…

肥後守(ひごのかみ)

絵・肥後守 昔の武将ではない、折込式小刀のことだ。鉄製の柄に『肥後守』の銘が彫ってあった。 刃をたたむと柄のなかに納まる構造になっていたから、柄というより鞘(さや)というのが適切なのかもしれない。 学校で鉛筆を削ったり工作に使っていたから、ほ…

ヘリコプター

昭和30年(1955)のことだった。 パタパタパタ…聞きなれない音が山の向こうから近づいてくる。「ヘリコプターだ」 直感で確信した。 音の近づく方角の上空を見つめていると、2機のヘリコプターが山の向こうから姿を現した。 初めて見るヘリコプターだ…

雑誌

そのころ、子供向けの雑誌として、「幼稚園」「小学○年生」があった。いずれも月刊誌であり、これらは、現在でも続いている。他に、今では廃版となった「少年」「少年倶楽部」があった。 自分で買うことはできなかったから、次兄が友人から借りて来たのを読…

寒波

「降るなー」 5年の冬、午後の授業だった。 担任の先生が手に広げていた教科書を置いて外を見た。 真っ黒な空から雪が視界を遮断して音もなく降り続いている。 授業を中断して先生が教室から出て行った。「大雪になりそうだ、すぐ帰りなさい」 しばらくして…

猿のお尻

我が家には田んぼが3反しかなかったが、3反という広さはぼくのような遊び好きには好都合であって、野良仕事で手伝いをさせられるのは田植えや稲刈りだけだった。あとは単発的に田んぼの水入れとか田車での草取り程度で済んだ。 野良仕事は祖母と母だけで済…

夕焼け小焼け

夕焼け小焼けで 日が暮れて 山のお寺の鐘が鳴る お手てつないでみな帰ろ カラスと一緒に帰りましょ 童謡・ゆうやけこやけ

風邪

ある日曜日の昼すぎ中学校の裏山に設置されている村のサイレンが「ウー、ウー、ウー…」と断続して鳴りだした。 警報だ。 皆の顔から血の気が引いていく。 広場で遊んでいたぼくらは周辺を見廻した。 城福寺裏山の後方から、もくもくと真っ黒な煙が天に昇って…

春が来た

春が来た春が来た どこに来た 山に来た里に来た 野にも来た 童謡・春が来た

節句

毎年4月4日は節句だった。 3月3日の桃の節句と5月5日の端午の節句をまとめて、4月4日を子供の節句としていた。いつごろからそうなったのかは分からないが、ずっと昔からの行事だった。 学校も午前中で終わる。 皆が急いで家へ帰った。 家では祖母と…

雨の日

雨の日曜日は好きだった。 農作業ができないから、ぼくも農作業にかりだされることはない。 母は納屋で莚(ムシロ)を織っている。ぼくは好きな工作をして1日を過ごすことができる。― さて、何をしようか、舟を作ろうか。 心がうきうきとしてくる。 手もちぶ…

公会堂

村の中心部に公会堂があった。花道を有する舞台を前にして板の間の客席と後部二階席を設けた本格的な芝居小屋である。 成人式や敬老会などの村の公式行事のほか、巡回映画や地方周り演劇団の公演があった。 正月には、青年団による芝居が恒例になっていた。…

大川

村の中央を流れている福光川を大川と呼んでいる。 大川は全体に浅く危険な場所もないので、ぼくらのかっこうの遊び場になっていた。水の中を歩きながら小さなタモ(網)で魚を捕っていく。鮎、鮒(フナ)、ハヤ(ウグイ)、ウナギなどが捕れたが鮎とウナギし…

タヌキに抓(つま)まれた

夏のある日、村の中は朝早くから騒がしかった。 昨夜、隣町へ酒を飲みに行った青年が帰って来ないということだった。昨夜のうちに家族が迎えに行ったが、すでに青年は酒屋を出ていた。隣町への道路は一本道なので途中ですれちがっていたということは考えられ…

ハミ(マムシ)

夏にはハミがでた。 ぼくの村には人間に危害を加える動物のいない中で、ハミは唯一、生命を脅かす毒蛇なのだ。ただし、ハミに噛まれても病院に血清が完備されていることもあって、命を失うということは、ほとんどなかった。「手当てさえ早ければ助かる」「ハ…

大掃除

「起きろ、天気がいいぞ」 4時半にたたき起こされた、外はやっと明るくなり始めたところだ。「今日は忙しいぞ」 祖母と母がいやに張り切っている。 毎年夏休みに実施する大掃除だ。 早々に朝食を済まして、ただちに畳あげにかかった。畳の裏に書いてある番…

消毒(農薬散布)

「林(はいし)の田んぼに水を入れてきて」 母が次兄に言った。 家から1キロほど離れた林という隣の地区に我が家の田んぼが2反あった。 次兄が自転車を運転しぼくは荷台に乗って出発した。 あと少しで着くというとき前方の田んぼで消毒していた。 白い粉末…

鉛筆

鉛筆と言えば「MITSU-BISHI」と「Tombow」の記憶が残っている。 運動会の賞品としてもらえるのがMITSU-BISHI鉛筆だった。濃い黄色に塗装した鉛筆で消しゴム付だった。 この鉛筆は普通の消しゴムなしのものより値段が高かったの…

村民大運動会

家族皆が寝る態勢になって寝具の中にいる。「明日晴れるかな」 僕がつぶやいた。明日は村民大運動会だ、なんとしても晴れてほしい。「心配ない、晴れるよ。背戸でフクロウがノリツケホーソと鳴いている。『糊を付けて干そう』と言っているのだ」いびきをかい…

さんべ高原

甘粥

同級生のお父さんが警察に捕まったという噂が流れた。「納屋でドブロクを造っていたのがばれた」 ということらしい。 納屋の奥にドブロクを入れた甕(かめ)を隠していたが、醗酵の匂いを駐在所の巡査さんに嗅ぎつ付けられたのだ。「屋内に隠すから見つかるん…

正月

正月の準備は障子の張り替えから始まる。 12月29日、大川に運んだ16枚の障子を水に浸して糊が溶けたところで竹の棒に障子紙を巻き取った。この剥ぎ取った紙は乾燥させて便所に立てかけておき、トイレットペーパーとして使用していた。普段使用している…

大寒

吹きすさぶ木枯らしに乗ってチリンチリンと鈴の音が近づいている。 村にあるお寺のお坊さんが寒行を始めたのだ。早朝暗いうちに村中の家を回ってお祈りをしてくれる行だった。「今何時」 祖母に聞いた。「3時過ぎだ」 外は真っ暗だ、夜明けはまだまだ先だ。…

里の秋

静かな静かな里の秋 お背戸に木の実の落ちる夜は ああ母さんとただふたり 栗のみ煮てますいろりばた 童謡・里の秋

裏山

小学6年を前にした春休み、大阪から伯母が来た。 ぼろぼろになった家屋を見て、「疎開で来ていた頃より、もっとひどくなった」 と言っていた。確かに家はぼろぼろだった。 藁葺(わらぶき)の屋根は必要にせまられて4、5年ごとに葺き替えていたが、外壁は…

朧月夜(おぼろづきよ)

菜の花畑に入日うすれ みわたす山のは かすみ深し 春風そよ吹く空をみれば 夕日かかりて匂い淡し 童謡・朧月夜 6年になって新学期初めての音楽の授業だった。「今、菜の花が満開だね、これにしょうか」 やや緊張ぎみの女先生(おなごせんせい)が音楽の教科…

新聞配達

小学6年から中学3年まで新聞配達をしていた。 配達は1時間かかったが、田舎のことであり全部で24軒しか購読部数がなく、1か月のアルバイト料は500円にしかならなかった。そのころの日雇い仕事にでる女性の日給が260円だったから、その2日分でし…

中学校

写真・龍岩、校舎は現・温泉津小学校(撮影・2015年5月) 昭和32年(1957)4月、温泉津町立福波(ふくなみ)中学校に入学した。 金ボタンの学生服に、白い二本線をつけた帽子を被って通学する。 学生服が詰襟(つめえり)になった。急に大人になったよ…

海は広いな大きいな

海は広いな大きいな 月は昇るし日はしずむ 童謡・海は広いな大きいな

海水浴

絵・福光海岸(ヘビ島) 夏休みに入ったというのに、毎日うっとうしい梅雨が続いている。 夕方、西空が明かるくなったから、明日は晴れるぞ。と期待しても翌朝になると雨が降っている。「このまま8月まで梅雨が続くのか」 憂鬱な日が続いた。 梅雨が明けない…