温泉津町福光・遥かなる故郷

僕の少年時代(昭和20年から30年代)の思い出

爆撃機と戦闘機

家を揺るがし吹き荒れていた木枯らしがピタリと止んだとき、上空を通過する飛行機の音が不気味に響いてきた。プロペラ機特有の低い音だ。「アメリカ軍の編隊だ、朝鮮へ爆弾を落としに行くんだな」 長兄が言った。 当時は昭和25年に勃発した朝鮮戦争の真っ…

肥料(こやし)

朝から粉雪が降っている寒い朝だった。 近くで大きな話し声が聞えている。静かな村のことであり、ほとんど聞くことのない大声だ。―なんだろう。 ぼくは石段を下りて屋敷前の道に出た。 100メートルほど下(しも)の道端で5、6人が電柱を交換していた。 …

灸(やいと)

6歳のとき、М君とY君が三輪車を買ってもらった。いつも3人で遊んでいるのに自分だけ三輪車がない。「買ってくれ」と母の後をつけまわし泣きわめいた。最初は黙っていたが、あまりのしつこさに堪忍袋の緒が切れた母は、うつ伏せにしたぼくの背に馬乗りにな…

春の小川

春の小川はさらさら流る 岸のすみれやれんげの花に においめでたく色うつくしく 咲けよ咲けよとささやくごとく 童謡・春の小川

小学校

高学年用 低学年用 昭和26年(1951)4月、福波村立福波東小学校に入学した。 全校生徒280名、新入生は男児が18名、女児が25名だった。 校舎は明治時代建築の木造平屋建てで、講堂は昭和の初めに講堂兼体育館として建てられていた。 1年から5…

学生服

絵・冬の登校 小学校には制服がなかった。 女の子は私服を着ていたが男の子はほとんどが学生服だった。そのころは戦後で物資の乏しい時代だったから学校に限らず家でも来ていたのでぼろぼろの服になっていた。上着の肘とズボンの膝、それに尻にもお猿さんの…

履物(はきもの)

絵・わら草履 絵・布草履 小学校の上履(うわば)きは藁(わら)草履(ぞうり)だった。 女の子は赤い布、男の子は青い布を織り込んで、それぞれが工夫した草履だった。 ぼくのは、祖母が藁の間に青い布きれをはさんで、きれいに作ってくれた。 祖母は、ときどき筍…

教科書

教科書は有料だった。新学期がはじまる前、学校へ売りにきた。でも買うのは、いつも1冊か2冊だけだった、あとは古いのを使っていた。 毎年、同じ村の1年先輩から譲ってもらった。それら教科書は汚れていた、落書きもあった。ときには破れていることもある…

弁当

給食がなかったから弁当を持って通学した。 アルマイトの弁当箱にごはんをいっぱい詰めて、まん中に梅干しが入っていた。これが、昔から続いている『日の丸弁当』だ。 アルミニウムは酸に弱く梅干しでも穴が開くので、腐食を防ぐよう表面加工したのがアルマ…

莚(ムシロ)

絵・ムシロ織機 絵・縄綯い機(なわないき) 母は納屋で1日中織機の前に座り両手両足を使って、ゴットンバッタンと莚(ムシロ)を織っていた。 ムシロ織機は母の実父であるおじいさんが、「女が土方(どかた)仕事をするのはかわいそうだ」と言って購入してくれ…

農繁期

絵・鋤(すき) 5月になると「猫の手も借りたい」といわれるほど農作業の忙しい時期となった。まず、麦を刈りとって、牛に引かせた鋤(すき)で田を掘り起こす。次は、人の手で鍬(くわ)を使って土の塊を小さく砕いていく。それから田んぼに水を入れて、再び牛…

誘蛾灯(ゆうがとう)

田んぼのあぜ道に誘蛾灯があった。低い台の上に農薬を入れたタライがあり、その上で青白い不気味な光となって輝いている。寒々(さむざむ)とした青い色だった。 タライの中には光に誘われて集まってきた害虫が死骸となって浮いている。 そのころの家庭は、ま…

田車(たぐるま)

田植えが終わってひと月もすると稲は大地にしっかり根付いてきた。植えたときには若草色のか細い苗だったが、今では深い緑色に変わって太くたくましくなっている。 中学生のとき、夏休みに入って早々、母から田車での草取りを言いつけられた。涼しいうちに作…

田の草取り

夏の炎天下、祖母と母が田んぼの中を四つん這いになっている。稲のまわりに生える雑草や稗(ヒエ)を手で掻き取りながら土をかき混ぜている。稲の根に酸素を与えてやるのだ。水に足と手を入れての作業ではあるが、容赦なく背中に降り注ぐ真夏の太陽を避ける…

浜千鳥

青い月夜の浜辺には 親を探して鳴く鳥が 波の国から生まれ出る 濡れたつばさの銀の色 童謡・浜千鳥

大腸炎

小学2年の夏休みだった。夕方、動くのがしんどくて畳の上に寝ているのを母が見つけた。 痛みがなかったので自分では「病気になった」という認識はなかったが、「どうした」 ぼくの額(ひたい)に手を当て、あまりの高熱に仰天した母は、ぼくを背負って隣町の…

予感(1)

9歳のときだった。となり村にある親戚の有線放送が「今朝、xxさん宅に泥棒がはいりました…」 繰り返し放送していた。「xxさんの家は、駅からここへ来る途中にある大きな地蔵さんの前の家か」 ぼくの言葉に、「どうして、その家を知っているの」 伯母さ…

雷さま

8月の初め、昼の3時ごろからすさまじい雷が襲(おそ)ってきた。 家から500メートルほどしか離れていない無人の変電所を襲っている。 稲妻が幅1メートルもある光の帯となってバシッという轟音(ごうおん)とともに鉄塔に落ちた。 瞬間、碍子(がいし)が火…

案山子(かかし)

山田の中の1本足のかかし 天気も良いのに蓑かささして 朝から晩までただ立ちどおし 歩けないのか山田のかかし 童謡・かかし 秋になり稲穂が頭(こうべ)をたれるころになると、田んぼにスズメが群がる。せっかく実(みの)った米をスズメに食べられてはたまら…

出た出た月が まるいまるい まん丸い 盆のような月が 童謡・月

枇杷木のおじさん

絵・はでご(稲架=はさ) 稲刈りの日が近づくと田んぼの隅にはでごを立てた。長さ5メートルほどの杉の柱4本を3メートル間隔で立て、長い孟宗(もうそう)竹を横に渡して6段の棚を作った。 はでごは台風などの強風に倒れないよう風向きを考え、日当たりの良…

傘(かさ)

新しいかさ おばあちゃんが買ってくれたかさ ぼくのかさだ 外に出て、いきおいよく開いたらバリバリっと音がして ぷーんと新しい油のにおいがした とてもいいにおいだった はやく雨がふるといいのにな 小学2年のとき、父兄参観日に教室の黒板に書き出された…

取り入れ

絵・稲刈(いねかり) 絵・稲架(はさ)かけ 10月中旬、祖母が天気を気にしている。 そろそろ稲刈りの季節だ。「よし、今度の日曜日には稲刈りをするぞ」 毎日夕方になると西の空を見ていた祖母が今週末には晴れると確信して決断した。 「起きろ、今日もい…

脱穀(だっこく)

絵・脱穀作業 絵・脱穀機 11月中旬、稲架(はさ)で天日干ししていた稲から籾米を取り出す(脱穀)時期になった。 家の近くの田んぼは祖母と母が稲を家まで持ちかえって脱穀したが、林地区の田んぼは量が多いので現地脱穀することにしている。 日曜日の朝…

村祭り

村祭りは9月9日の「十日祭り」と、10月31日の夜から11月3日までの「本祭り」との2回に分かれている。 十日祭りには石見神楽奉納がある。 9月9日の午後から学校も休みになり翌日も休みだ。 ぼくらは、うきうきと心をはずませて学校から帰り、Y君…

紅葉

秋の夕日に照る山もみじ 濃いも薄いも数あるなかで 松を彩る楓(かえで)や蔦(つた)は 山のふもとの裾もよう 童謡・紅葉

薪(たきぎ)

絵・大八車 絵・背負子(しょいこ) 雪の到来を前に風呂焚きやカマドの燃料にする薪(たきぎ)を確保しておかなければならない。ヤナイゴ谷の山から雑木を切り出して家(うち)まで持ち帰ることになった。 大八車(だいはちぐるま)があれば一回に多くを運ぶことが…

籾摺り(もみすり)

絵・籾摺り機(もみすりき)による作業 絵・発動機(燃料は重油) 毎年、12月23日か24日のいずれか天気のいい日、秋に脱穀した籾から玄米を取り出す作業(籾摺り)をした。これは機械がいるので、近所のおじさんに依頼していた。 朝早く、おじさんは籾…

消し炭

木炭は火が点(つ)きにくいので、やわらかくて燃えやすい消し炭を混ぜていた。 消し炭は風呂の残り火を素焼きの壷(つぼ)に入れて作っていたが、冬のコタツに使うにはとうてい足りないので、ひと冬用の消し炭を作ることになった。 米の取り入れも終わり、農作…

大風(おおかぜ)

いつもは静かな山村に不気味な音が殷殷(いんいん)と轟(とどろ)いている。 誰も経験したことのない現象に村の人たちは不安に陥(おちい)っていた。 野良仕事をしていた人たちが集まってきた、だれもが不安な顔をしている。「何の音だろう」「地鳴りのような低…